書評

【ビジネス】厨房の哲学者 シンパパ薬剤師 わたわた的読み所3選

今回は脇屋 友詞著の厨房の哲学者です

 本書は中卒で山王飯店、星ヶ岡、リーセントパークホテル等を歴任した中華料理人である著者の自叙伝です。子供時代に悪戯して父親に殺されるかと思ったというエピソードや中華鍋が洗えなくて苦悩した日々などが読者でも鮮明に情景が思い描くように描写されています。流石見城さんが編集しただけのことはある

 自叙伝ではありますが、自己啓発的な側面もあります。本書は時代柄、昭和的なマッチョな考え方がほとんどですが、現代に欠けた根性論から気付かされることが多いと思います。将来何しようかと考えている若者から自己実現迷子に陥っている社会人まで幅広く読んで頂ける作品だと思います

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なるほどポイント

  1. 仕事を決めるのにドラマのようなストーリーなど不要
  2. 凡人が成り上がるなら圧倒的努力が不可欠
  3. 一人で出来る成功はたかが知れている

仕事を決めるのにドラマのようなストーリーなど不要

 皆さんは仕事をどうやって決めましたか?学生さんならどんな仕事に将来就きたいですか?仕事については人生で一度は考えると思います。著者の場合は厳格な占い師の父親が食の道に進めば安泰ということで料理人にすると決められたそうです。なんだか許嫁みたいですね。ちなみに許嫁の方が恋愛結婚より離婚率が低いらしいですね

 本書では中卒で料理人になったとありましたが、詳しく読むとそれなりの偏差値の高校に行ければ行かせてもらえたそうです。ただやんちゃしていたためそんな学力もなく、父の決めた中華料理屋で「美味しい」と言ってしまったのが始まりだそうです

 ちなみに私は「中学の頃に好きだった女の子が薬学部に行くと言っていた」ので薬学部に行き、そのまま薬剤師になりました。会社は「小さい時によくガチャガチャをやりに行っていたから」という理由で選びました

 職業を選ぶきっかけがそんなに大したことないという点で著者と似ているなと感じました。スラムダンクの流川が湘北を選んだ理由が「家が近い」のように何かを決めるのに無駄なストーリーなど考える必要なんてないのかなと思いました

凡人が成り上がるなら圧倒的努力が不可欠

 著者の修業は山王飯店時代に中華鍋洗いの下っ端から始まり苦難の連続だったようです。厨房では当然のように縦社会で親方は皆中国人で日本人はほぼ下っ端。同期もほとんどが辞めるほど仕事内容もきつい

 そんな環境で15歳の著者が仕事を続けられた理由は家族への仕送りのため。人間、厳しい状況でも折れずにいられるのは結局他者のためということですかね。なるほど、その中華料理屋で成り上がる話なのね!と思っていると意外にも3年で別の厨房に転職してしまいます

 こうした自叙伝の努力パートって読者に嫌われるのかあっさりなんですよね。朝に厨房に侵入して中華包丁の練習をしたりと簡単に書かれていますが、実際はもっと壮絶な努力をしていたのだと思います。別の厨房の話ですが、著者だけは昼寝を許されるほどだったそうです。あいついつ寝てるかわからないから暇な時くらい寝かせてやれくらい思われるほどだったんでしょう

 少し話は変わりますが、著者は最初の料理屋で相当な理不尽を受けたんだと思います。こうした「理不尽というのは将来に活きる」というメッセージが読み取れました。実際に別の厨房では山王飯店の求めるクオリティは高かったと称されています

 私も高校の野球部では理不尽を受けました。野球部を辞められるなら勉強して学年トップになれる!と思い、本当に学年トップになったほどでした。こうした理不尽は社会人になっても役に立ち、多少の苦悩なんてあの時の練習に比べたら…と考えられます。皆さんには人に話せる理不尽な経験はありますか?あるのであればストックして人生に活かしてください

一人で出来る成功はたかが知れている

 著者は様々な厨房を歴任してステップアップしていきます。一人の力であれば料理長で終わっていたと思います。本書に中国人の親方に可愛がられるのが得意だったとあります。人を惹きつける魅力、率先垂範する行動力があったのでしょう

 作中でとある実業家に料理長をやらないかとヘッドハンティングされるシーンがあります。まぁお決まりのサクセスストーリーだなと思っていたら、そうでもないんです。よくある指南書にある法則に反して著者はチャンスに飛びつかないんです。色々な理由を考えて、チャンスを断ろうとします。ここで凄いのが実業家の方がなかなか引かずに「店舗はあなたの好きなようにしてくれて良い」とまで言わせるほど。著者も凄いですが、見つけた金の卵を産むガチョウを逃がさんとするその実業家もなかなかです

 我々の転職と違って料理長としての引き抜きはチーム自体の引き抜きと同じです。料理人としていくら実力があっても周りに慕われていなければ誰もついてきません。本書には後輩との付き合い方などは詳しく触れていなかったですが、横暴に対応していたとは思えません。こうした点も読者としては気になる所ですね

 私は薬局で働いていますが、マネジメントが面倒くさいので少数人数の店舗で長年働いています。著者は料理長としてチームを率いて、経営者にまでなっています。著者と比べるとしょぼい人生に見えるかと思いますが、私はこの生き方が丁度良いので今のままで十分幸せです。皆さんも自分の人生どうしたいのか一度考えてみてください

 いかがでしたでしょうか。こうした自叙伝をカンフル剤として頑張るのもアリですし、読み物としても面白いです。編集者が見城さんなので暑苦しい文で臨場感があります。本書を読んでいて天才という共通点で言えば、以前読んだ小説で「蜂蜜と遠雷」を思い出しました。これも見城さんが編集していて好きでした。少し話が脱線しましたが、気になった方は「厨房の哲学者」を読んでみてください。それでは。